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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)37号 決定

理由

そこで考えるに、原審訴訟事件における訴の目的は、原告(本件抗告人)が訴外岡野盛夫に家屋を賃貸中、岡野がこれを無断で被告両名に転貸したので、原告は岡野との間の賃貸借契約を解除し、現に家屋を占拠中の被告両名に対し、所有権にもとづき明渡を求める、というのであるから、もし原告の右請求に対応する被告両名の明渡義務が相手方に承継されたものとすれば、相手方は被告両名のため本訴訟を引き受けるべきこと明らかである。

そして、この明渡債務の承継の有無を判断するに当つては、被告両名が実体上原告に対し明渡義務を負つていると仮定した場合に、(この点の確定は本案の領域に属する)この明渡義務が相手方に承継されるべき原因事実が発生したかどうかの点についてのみ審究すれば足る。すなわち、本件原告の所有権にもとづく妨害除去請求権に対応する被告らの明渡義務は、本件家屋の占拠者としての地位によるものであるから、占拠者たる地位が相手方に承継されたかどうかを判定すれば足り、かかる占拠の性質如何(たとえば所有の意思の有無、自主占有他主占有の別、直接占有間接占有の別のごとき)は問うところではない。また、承継は、被告両名と相手方との間になんらかの法律行為または法の規定の効果にもとづく占拠関係の移転がある場合に認められるものであるから、相手方が右のごときなんらかの法律関係にもとづくことなく、まつたく別個の事情により独立に占有を開始したような場合には、たとえ相手方が原告に対し明渡義務を負うことになるとしても、それは被告らの明渡義務とは別個のものであり、両者の間に「承継」の観念を入れる余地はない。

ところで、本件記録上に現われた従前の口頭弁論の結果及び訴訟当事者ならびに被申立人(本件相手方)審尋の結果によれば、本訴提起の当時、本件家屋を現実に占拠していた者は被告両名のみで岡野盛夫は占拠していなかつたこと、本訴係属中に被告両名が退去し岡野がこれに代つたこと及びその交替の原因が貸借関係(及びその終了)によるものか、あるいは単なる留守番の関係(及びその終了)によるものかはともかくとして、いずれにしても交替が被告両名と岡野盛夫との間の合意にもとづく法律関係に由来するものであることを認めることができる。したがつて、その間には前述の意味の承継を肯認することができ、岡野は原告の本訴請求に対応する被告らの物件占拠者たる地位を承継し、これにより明渡義務を承継したものといつて差し支えない。

この場合、岡野が原告に対して、右のように被告らから承継した地位のほかに、被告らの有しなかつた独自の占有権原を有するかどうかは、また別個の問題であつて、岡野は明渡義務の承継人として訴訟を引き受けたのち、本案手続において原告に対する独自の権原を主張して明渡義務を争うことができるこというまでもない。

しかして、相手方は岡野盛夫の妻として未成年の子二人とともに本件家屋に同居していたところ、盛夫は昭和三三年六月五日に死亡したこと前掲資料により認めることができ、したがつて相手方は盛夫の有した家屋占拠者たる地位をさらに承継したものということができる(この関係は、盛夫の有した占拠を相手方が相続により承継したものではなく、同居家族のごとき一個の居住単位の家屋占拠の関係は、家族全員にそれぞれ独立の占拠があるものとみることは社会通念に合致せずその必要もないため、現実にその居住単位を代表して家屋を支配する者にのみ独立の占拠を認めるという法律構成をとるのであるから、かかる代表者を欠くにいたつた場合には占拠者たる地位はこれに代つて家屋を支配する者に移転すると考えることが、右のような法律構成の帰結として相当であり、かかる移転が前者の死亡により行なわれる場合には、一種の当然承継であるということができる)。

以上説明のとおりであるから、抗告人の本件訴訟引受の申立は相当として認容すべきものであり、これを却下した原決定の取消を求める本件抗告は理由がある。

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